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第4話 モイラ

Author: 文月 澪
last update Last Updated: 2025-12-05 19:51:54

 目が覚めると、そこはもう別世界だった。わたしは剥き出しの土に横たわっていて、頬にひんやりとした硬い感触と、斜に傾いた世界が見える。転がるように仰向けになって、木々の合間から見える空をぼんやりと眺めた。できるなら、このまま眠りたい。

 けど、下は硬い地面だ。ごつごつとした石が背中を刺し、そろそろ痛くなってきてのっそりと起き上がる。辺りを見回すと、鬱蒼うっそうと茂った木々が立ち並び、まだ夢の中にいるのかのように錯覚した。でも土の匂いや木々の隙間から刺す眩しい光、羽虫の飛ぶ不快な音、頬を撫でる生温なまぬるい風、その全てが五感を伝って現実だと訴えかけている。

 辺りを見回しても、イコナさんの姿はどこにもない。彼は最後にわたしを猿とののしっていたし、たぶん強制的にシャットダウンしたんだろう。そこから考えても、この異星に放り出した事くらい、わたしにも分かった。しばらくその場に留まってみても、森の中に狩人や木こりが現れる事は無く、ただざわつく木々の葉擦れの音だけが聞こえるだけ。

 そんな静寂の中で、ひとつだけ異様なものがあった。それは視界に浮かぶ『メジャーメント・スキャンを実行してください』の文字。私の視界の端で赤く点滅し、激しく自己主張しているそれは、メガネもパソコンのウィンドウのような枠も何もなく、空中に浮いていた。なんとなく、バラエティ番組のテロップを連想してしまう。

 その文字の上には、型番らしき文字列が並んでいる。

『Moira-09-RD.017』

 これは、何だろう。

 「モ・イ・ラ……?」

 わたしが呟くと、掠れた声が漏れる。それは聴き慣れた自分の声とは違っていて、ひどく違和感を覚えた。喉を押さえ、あーあーと何度か発音してから気付く。

(あ、そうか。これ、セトアっていう子の声なんだ……)

 イコナさんが言っていた、この森で亡くなっていたというこの体の持主。手を見ると同じようでいても、どこかが違う。十五年の間に刻まれた傷や、手荒れ、赤切れが消えている。触ってみると、少し皮膚が硬い。

(本当に、セトアになったんだ……)

 それは、佐伯花子が消えた事も意味する。声ひとつでも、自分で無くなるのは思った以上にストレスが大きい。深呼吸をすると、森の匂いが肺に満ちて少しだけ落ち着く事ができた。

(森林浴って、本当に効くんだな)

 そんな風に思っていたら。

『メジャーメント・スキャンを実行しますか?』

 いきなり機械音声が響き、びくりと肩が跳ねた。

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